映画『太陽』 感想

入江悠監督が神木隆之介門脇麦を主演に映画化した映画『怒り』について色々書こうと思います。

2016年の夏には渡辺謙森山未來などが出演した『怒り』という映画が東宝から配給され、理不尽に対する怒りやどうしようもない悲しみなどを目の前に、呆然と途方にくれてしまうようなそのストーリーに衝撃を受けた、と話題になってましたが、

ぶっちゃけこの『太陽』のほうがずっとずっと衝撃的で後に引きますね。

 

元は舞台で、過去には蜷川幸雄も演出したらしいと耳にして見に行きました。

 

とりあえずこの映画のあらすじを公式サイトから

物語の舞台は 21世紀初頭。バイオテロによって世界にはウイルスが蔓延。太陽の下では生きられないが、若く健康な肉体と高い知能を有する進化した新人類【ノクス(夜に生きる存在)】。太陽の下で自由を謳歌しつつも、暮らしは貧しいままの旧人類【キュリオ(骨董的存在)】。2つの世界で対立しながら生きる2つの人間がどうやって融和していくのか─生きることはどういうことなのかを問いかけていく。

eiga-taiyo.jp

 

超絶簡単にまとめると

世界はウイルスのせいで2種類の人種がいる

・ノクス(若く健康な体と高い知能を持ち、高層ビル、食べ物、光が溢れている町に暮らし、知的な産業に従事する進化したとされている人種)

・キュリオ(年相応に老化し、農業や畜産などの肉体労働によって生計を立て、貧しい暮らしをする進化していないとされている人種)

ノクスは太陽を浴びられず、キュリオは太陽のもとでも伸び伸びと生活ができるという設定。

 

キュリオはノクスに羨望の眼差しを向けており、あのような豊かな生活を送りたいと望む。そのためにはキュリオの慈善事業に応募して合格し、手術を受けることが必要。

鉄彦(神木隆之介)と結(門脇麦)はノクスであり、鉄彦はキュリオになりたいと幼い頃から望んでいたが、色々あってキュリオになったのは結。

 

かなり雑ですが、伝わりますかね?

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見ているときに何回泣いたか分からないです。

辛い、辛すぎる。かなりのディストピアですが、この豊かな日本、そして高等教育を受けている人として見るべきだと思います。

豊かとは何か、愛とはなにか、人間らしいとはなにか、など強制的に考えさせられて、SFであるはずなのに残酷なまでに見ている観客1人1人を他人事にさせてくれない物語でした。

このストーリーが持つ普遍性はまさに蜷川幸雄が好きそうだなぁと思った記憶があります。

 

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以下、私の感想。(基本的にネタバレ)

 

まず底知れぬ恐ろしさを感じたのは、ノクスのその善良さ。

なぜ自分たちの仲間を大量に殺したキュリオを助けたいとそんなに強く思えるのかの答えが頭をよぎった途端、ノクスが怖くてたまらなくなった。

ノクスは、キュリオのことを本当に自分たちと同等とみなし、差別なんて考えはないのだと思う。

人間には昔から身分の差がある。貧しいほうが下に見られ、豊かなほうが大きな力を持ち、上に立つ。

ライオンが君臨し、彼らはシマウマを格下にみなすことはどうしようもない自然の摂理だ。

なのにノクスはそのような思想が1mmも見えない。

きっとそれは彼らの学んだ教育、教科書には「差別はしてはいけない」「人類皆平等」と書いてあったから。

それを自分で咀嚼して考えることなく、心のなかにそのまま据えることができてしまう人種なのだ。

もはやこれは素直さという一言で片付けてはいけない。

恐ろしいまでに無機質で、とても機械的だ。全てを何の疑いもなく受け入れている。

人間は感情を持ち日々悩みが尽きずに蛇行するからこそ人間なのに、いったいこのノクスはどうしたのか。

いつも「絶対的な答え」を知っていて、悩みや愛は効率的ではないと切り捨てている。

そしてそのノクスの恐ろしさに、鉄彦はなぜ気がつかないのか。

私もきっと気がつくべきことに気がつけていない、と恐怖に落とされた。

 

そして結の父は娘の「豊かな」生活を願って勝手にノクスへの転換を申請する。

彼はキュリオの人間らしい「豊かな」心(怠けたり、間違いを犯したり、けんかをしたり、うつつをぬかしたり、、)の大切さを知りながらも、娘には幸せ(物理的な)になってほしいと結を送り出す。

きっともう親孝行の精神にあふれた優しい結には二度と会えることはないと分かっていながらも送り出す、そのとてつもなく大きな愛、無条件な愛にやられてしまった。

ノクスになった結は案の定、あんなにも思い入れのあったマフラーをあっさり捨ててしまう。そんな結の姿を見てもなお、結の父は悲しみを抑えて笑顔で送り出そうとする。

そして結は最後に「あんな下らないことで悩んでたことが馬鹿らしい」と発言する。

まさにディストピア。どうすればいいのだ。

 

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とにかく見てほしい映画です。

(あのクソ映画)君の名は。』を2回も見るんだったら、この映画にその2時間をください。

門脇麦ちゃんのノクスになると一気に機械的な声になり、棒読みで一本調子、抑揚なんてくそくらえ、といった演技が最高です。